となり
『そ…空太?』と
私の鼓動は早くなった
あり得るはずがない彼の姿―
彼はいつも見せていた
昔から変わらない
あの笑顔を見せると一呼吸あき
『もえ、ごめんな』と
今度は切なそうな顔をさせ
私から視線を反らした

私は再び大粒の涙が自然に
溢れ出すと彼は私に近づき
そっと優しく抱き締めた

久しぶりに感じた彼の温もり―
彼の鼓動と私の鼓動が
シンクロしながら
体温もひとつに感じた
私は彼の胸の中で何度も
彼の名前を呼びながら
声が出なくなるまで泣き続けた

しばらくすると
トントンと病室の扉が叩かれ
看護婦さんが昼御飯を持ち
病室に入って来ると
彼は自然にもえから離れた

『七瀬さん、昼食ですよ。あらっ、面会?』と
看護婦さんは問いかけ
もえの顔を見ると
泣き張らした目に気づくと
それ以上何も聞かずに
『ちゃんと残さず食べるようにね』と
言うと病室を出ていった

看護婦さんがいなくなると
彼はもえをベッドに座らせ
『昼飯だってさ。ちゃんと食べろよ』と
言うとベッド脇にあった
椅子に彼は腰掛けた
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