となり
私は部屋の前に立ち
扉の所にあった
彼の母親と思われる
名前を確認し少し控えめに
トントン…と扉を叩いた

中から『はい?』と
久しぶりに聞く彼の声だった…
その声はいつも聞いている
彼の声とは違い
少し弱々しく聞こえ
私は少し不安になりながら
扉に手をかけ静かに開けた

窓の外を見つめていた彼が
振り返り椅子から立ち上がる
それは幽霊でも
見たかのように
私を見て彼は驚いていた…

『どうして?』と
彼は私に問いかけたが
私は何も言わずに
彼の顔を見ていた
彼はゆっくりと私に近づき
私の前に私の顔を覗き込み
再び『どうして?』と
優しく問いかけた…

その顔は久し振りに間近で見た
私の好きな彼の顔だった
そして私の中で
何かが音を立て
ずっと押さえていた
涙が止めどなく溢れ
そしてその場に座り込むと
彼は何も言わずに
私の前に座り込んで
頭をポンポンと叩き
そして優しく私の肩を擦った
それはとても安心する
心地ちよさで私の涙は
とめどなくながれた
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