となり
彼の母親が私の名前を口にした
目にしたのもましてや
言葉を交わしたのも
始めてだったのに
私のことを知っている―
それは手を挙げて
跳び跳ねたいと思うほど
嬉しい気持ちでいっぱいになり
鼓動の音が早くなった

『私が想像していたより、ずっと可愛いわね』と
ニコニコ笑いながら
再び彼の母親は話かける
私は彼の母親をただ見つめ
顔を横に振りながら
顔を赤めていた

『空太がよく家でもえさんの話をしてて、あの子が女の子の話をするなんて珍しいから、どんな子なのかなって思ってたのよ』と
再びニコニコとなりながら
話をしている姿を
私は嬉しい気持ちなのに
何故か涙が出そうで
堪えるのに必死で聞いていた

彼の母親と話をして
30分位経ったのか…
突然病室の扉が開く

『あれっ、来てたんだ』と
彼は大きな荷物を抱え
少し息を切らしていた
彼は母親の着替えを取りに
家に戻っていたのだ

『母さん、体調どう?』と
彼は心配そうに母親に尋ねる
母親は彼に向かって
笑顔で頷き私の顔を見つめ

『可愛い彼女ね~空太』と
再びニコニコすると
『ちげ~ょ、何言ってんだよ』と
二人の会話がとても新鮮で
彼の久しぶりに見せた笑顔が
私は幸せな気持ちになった
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