となり
そして彼は涙を拭きながら
私の握っていた手を
強く握り返し口を開いた
『母さん、もう長くないみたいなんだ』と
彼のその言葉は
私に重くのしかかり
握り返した彼の手が
次第に小さく震え出したのに
気が付くと私が再び
彼の震える手を強く握り返し
私は泣いちゃいけないと
一生懸命溢れそうになる
涙を堪えていた

『母さん、もう自分が長くないこと、ずいぶん前から知ってたんじゃないかな。だから、父さんのこと、突き放して離婚なんてしたんじゃないかな。だから俺、母さんにもう一度、父さんに会わせてやりたいんだ。別に二人をよりを戻そうとかじゃないけど、母さんも父さんも嫌いで別れたわけじゃないんだし、最後はきっと父さんに会いたいって母さんも思ってると思うんだ』と
彼の言葉に私は首を縦に振り
彼の顔を真っ直ぐ見つめた

そしてこの時に
今まで以上に彼のそばにいて
力になってあげたいと
心の底から思ったんだ
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