黒い飴玉
「……」
今の獏の行動のせいで、私の心臓は馬鹿みたいに激しく脈を打っている。
何か言おうと思っても、その度に獏にさっき抱きしめられた事が頭に浮かび、意識して話しかけられない。
獏のほうは獏のほうで自分から話す気はないようで、何も言わずに私を見ている。
気まずい……。
「そう言えば……お前さっき聞きたいことがあったようだが」
沈黙という、かなり話しづらい雰囲気が流れている中獏が口を開いた。
「えぇーっと……悪夢っておいしいの?」
獏の投げてきたボールをちゃんと返すように、的確に頭の中で言葉をまとめて言う。
悪夢のことが気になっていたのは本当だ何も思い浮かばないから適当に言ったわけではない。
彼があそこまで悪夢に固執しているなんてどんなものなのだろうと思っていた。
「おいしくなければ喰うはずがないだろう?」
確かにそうだが……
けれど……
「だって……こんな黒い色をしているよ」
黒くて甘い飴だってあるが……ここまで禍々しい程どす黒いものをおいしくなんて思えない。
主食にしている彼には失礼な話だが……。
「悪夢だからな……そうだな……どんな月餅にも負けない味だと思う……」