涙飴
そして、五十嵐はあたしの手を引っ張って来た道を戻り出した。


「ちょっ、ちょっと五十嵐!?」


聞こえていて無視しているのか、聞こえていないのかは分からないが、五十嵐は止まろうとはしない。


しばらく行った所で、やっと五十嵐の足が止まった。


「あの…手……」


「あ、わりぃ」


そう言うと、五十嵐はあたしの手を放した。

心臓がドキドキと音をたてる。


「どうしたの?美津菜達とはぐれちゃったし……」


あたしは心臓を落ち着かせながらそう言った。
五十嵐は無言のままだ。
すると五十嵐が口を開いた。

「べ…なん…ねぇよ」


周りの人の声や笛や太鼓の音によって、五十嵐の声が書き消される。


「ちょっとこっち行こう」


今度はあたしが五十嵐の腕を引っ張って、人通りの少ない所へ連れて行く。


「……もしかしてさ、わざと美津菜達とはぐれようとしたの?」


だって普通あの人込みの中で違う方向に進めば、はぐれる事は誰だって分かる。


「もしかして、五十嵐も美津菜の事応援してくれてるの?」
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