涙飴
「別に俺だって普通に笑うよ」


そんな風に話す五十嵐には、いつもの恐い五十嵐はどこにもなかった。


「学校でも、そうやって笑えばいいのに」


そしたら確実に今よりモテるだろうな、と心の中で思った。


「別に笑わない訳じゃねーよ。
ただ、自分の気持ちに嘘ついて意味もなく笑ったって、そんなの誰も見ていない。無駄な努力だから」


あたしの事を言っている訳じゃないとは分かっていても、自分の事を言われた様な気分になった。


「確かに、無駄かもね。
だって五十嵐の笑顔は、いつも無駄に笑ってるあたしの笑顔なんかよりずっと心に残るし、もっと見たいって思う。
それに本当の笑顔だって分かるし、だからこそ、他の人の何倍もの価値があるんだと感じる」
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