涙飴
言ってから恥ずかしくなって、あたしは下を向いた。

良く考えてみれば、もの凄く恥ずかしい台詞だ。


五十嵐も黙ったままだし、やっぱり引いたのだろうか。


すると、いきなり五十嵐がまたあたしの手を握ってきた。


「どうしたの!?」


そのまま手をグイッと引かれ、抱き寄せられた。
あたしは五十嵐の胸の中に倒れる。

心臓が壊れそうだ。

一体五十嵐は何を考えているのだろう。


また、さっきみたいに別に深い意味はない、落ち着け……そう頭で思っても、心は正反対に激しく脈をうつ。


「あっあの……」


緊張して上手く言葉が出て来ない。


「あ…と……」


耳元で五十嵐が微かに何かを言ったのが聞こえた。


「ありがとう」


二回目ははっきりとその言葉を確認する事が出来た。

ありがとう、確かにそう言った。



凄いドキドキしたし、少し恥ずかしかった。
けど、嫌ではなかった。

決して好きとかではないけれど、初めて五十嵐が素顔を見せてくれた気がして、嬉しくなった。
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