涙飴
五十嵐は教室ではなく中庭に出た。
さっきから握られた手が汗ばんでいる。


「五十嵐、手……」


「あっ、わりぃ」


あたしが申し訳なさそうに言うと、五十嵐はパッと手を放した。
別に嫌な訳じゃなかったんだけど。
いや!別に嬉しかった訳でもないけど……ない、かな……。


「ごめん」


五十嵐は周りに誰も居ない事を確認してから、あたしに向かってそう言って来た。


「俺も部外者なのにあんな偉そうな事言って……」


「何言ってんの?
五十嵐のお陰で自分の気持ち華耶に言う事が出来たし、五十嵐があの時言ってくれなかったらあたしがキレてたもん。本当ありがとう」


さっきの五十嵐の言葉、本当に嬉しかった。
顔を上げると五十嵐が優しく笑っていた。
あたしの心臓が高鳴る。
きっと五十嵐の笑顔がかっこよ過ぎるだけだ。
すぐ治まる……。


「お前は頑張ったよ」


今度は五十嵐があたしの頭にポンと手を置いてきた。
あたしの心臓は治まるどころか、さっきの五倍位の音量で鳴り出す。
でもさっきも屋上で同じ事をされたよね……あの時は泣いていたからここまでドキドキしなかったけど。
思い出すと顔が熱くなってきた。

五十嵐をチラリとみると、笑顔の中に、少し照れた様な表情が混じっていた。

ドキドキと心臓がうるさい。
きっと、いつもと違う表情を見たから。

それだけ……だよね。
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