涙飴
「ごめんごめん。
じゃあお詫びにもう1個あげる!」
あたしは速くなった鼓動に気付かれない様にそう言うと、バッグから苺味の飴をもう1つ取り出した。
そしてそれを五十嵐が着ているジャージの上着についたポケットの中に入れた。
ポケットから出した手が妙に熱くて、その熱がまた鼓動を速くさせる。
「…どうせまた舐めたら笑うんだろ?」
「もう笑わないって!」
「もう笑ってるじゃん」
そう言いながらも、飴を返そうとはしない五十嵐。
それがなんだか凄く嬉しかった。
ポケットの中に手を入れるなんて、自分でも凄く大胆な事をしたと思う。
正直自分でもなんであんな大胆な事をしたのか良く分からない。ただ、気が付いたらあんな事をしていた。
多分、少しおかしかったんだと思う。
初めて見た五十嵐の表情に少しドキドキして、変な気持ちになったんだ。
でも、誰だって五十嵐のあんな表情見たらそうなるよ。
別に特別な事じゃない。
特別な感情なんてない。
…だけど、凄く楽しかった。
バスがこのまま目的地に着かなくてもいいと思った位に。