涙飴
そこで話は途切れてしまったけれど、その先の内容は、なんとなく想像がついた。


あたしは、手に持っていた飴玉の包み紙をジャージのポケットにしまった。



五十嵐は完全に勘違いしている。


『あたしは五十嵐の事が好き』　

そう言えば済む問題なのは十分に分かっていた。



けれど、言葉は喉に引っ掛かり、結局飲み込んでしまう。
それを何度も何度も繰り返した。

口に含んだ飴玉が段々と小さくなっていく。


黙って居たら、ますます五十嵐が誤解する。

分かっていても、言葉は一向に出て来ない。





「……え…？」


突然、視界が真っ暗になった。

本当に突然で、今自分がどういう状況にあるのか理解するまでに時間が掛かった。


あたし、五十嵐に抱き締められてるんだ…。


そう思うと、体中が熱を帯びて、五十嵐に聞こえるんじゃないかと思う程心臓が音をたてて鳴り出す。



「俺じゃ…駄目か…？」


耳元で聞こえた五十嵐の声は、今まで聞いた事のない様な、不安げで、今にも壊れてしまいそうな声だった。
< 221 / 268 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop