涙飴
「顔、上げて?」


ずっと黙っていた美津菜が、頭を下げたままの華耶にそう声を掛けた。
だけど美津菜の表情に変化は無く、華耶の言葉をどう受け止めたのかは想像出来ない。

華耶は、ゆっくりと顔を上げ、美津菜と向き合った。


「凄い、ムカついてた。華耶の事。
人の好きな人平気で奪って、可愛いからって男なら皆自分になびくと思ってる様に見えたし」


壁に掛けてある時計が、カチカチと単調な音で時を刻む。
美津菜がそこで話を切ると、そのカチカチという音だけが教室に響いた。

やっぱり、美津菜の怒りは消えていないのだろうか。

そう思っていると、美津菜が再び話を始めた。


「だけど、今、華耶に対しての怒りは全く感じてない。

喧嘩の時は、あたしも悪かったと思う。
自分の事ばっかりで、凄く醜かった。

でも、それが理由じゃない。
確かに、華耶がして来た事は、思い出せばやっぱり腹が立つし、許せない。

と思ってたけど、結局は、華耶も、あたしも、姫月も、皆同じなんだよ。

皆求めてる物は同じで、ただ華耶はそれが人より強くて、焦ってちょっと間違えちゃったんだよ」
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