涙飴
五十嵐は力のない笑顔をあたしに向ける。

だけどその裏にある感情が今にも溢れ出しそうで、なんだか痛々しかった。


「子供だよな。
そんな事いちいち気にしたりして。

だけど、その頃の俺はどうしても母親の愛情っていう物を感じてみたくて、竜夜みたいになれば、きっと自分も竜夜みたいに愛してくれると思ったんだ。

だから、とにかく勉強して、竜夜に追いつこうと必死だった。


だけど、いくら頑張っても追いつけなくてさ。

何も変わらない。
結局皆、俺を竜夜を基準に見るんだ。


だから、無駄だと思った。
楽しくないのに笑ったり、皆の機嫌とったり、そんな事しても誰も評価してくれない。
それに竜夜とかけ離れてしまえば、逆に皆竜夜と比べなくなるんじゃないかって思った。


だから、無理に笑うのを止めて、服装だってだらしなくして、髪も染めて……そしたら本当に比べられなくなった。
って言うより、『比べるまでもない』って感じか」
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