涙飴
「追い掛けなくていいの?」


突然静かだった教室に響く言葉。
あたしは頬を流れる涙を手の甲で拭うと、声のした方に視線を向ける。
黒板近くのドアから、大地が真剣な表情で教室の中に入って来た。


「き、聞いてたの?」


大地はさっきまで五十嵐が座っていた席に腰を下ろす。


「いや、五十嵐がここから出て行くのを見て、そしたら教室に姫月が居たからさ。
……泣いてたみたいだし。

好きなんだろ?五十嵐の事」


気持ちを言い当てられた事に驚いて顔を上げると、大地は「やっぱりな」と言って笑った。
そんなに分かりやすかったのか、と今までの自分に恥ずかしさが込み上げて来る。
それと同時に自分は卑怯者だという思いも込み上げて来た。
五十嵐の背中を見つめるばかりで、追い掛ける事も出来ない自分が、五十嵐の事が好きだなんて言ってはいけない気がした。


「でも、同情って言われた」


あたしがそう震えた声で呟くと、大地はそれに優しく答えてくれた。

「同情じゃないだろ?
同情だったらそんな風に泣いたり出来ない」

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