涙飴
放課後、美津菜が張り切りながら

「姫月!図書室行こ!」

とあたしの腕を引っ張る。


「あ、うん」


勉強するのにどうしてこんなに元気なんだろう。


「……てかさぁ、文化祭のあの五十嵐の言葉、何だったの?」


「へ?」


「だから、『さっきは悪かった。言い過ぎた』ってやつ!」


あたしはいかにも今思い出しました、という様な表情をした。
本当は、ずっとその言葉が頭から離れないでいた。

五十嵐の口からあんな言葉が出るとは思わなかった。
もしかしたら、自分のせいであたしが泣いたのだと思ったのだろうか。


「で、『さっき』って何?」

美津菜が迫ってくる。
あたしは平然と

「屋台でちょっともめただけ」

とだけ言って、スタスタと歩き始めた。


「ふぅ~ん……」


美津菜は疑いの目をしたまま、あたしの隣を歩く。


図書室はテスト前ということもあり、かなり混んでいた。


「うわっ!空いてる席あるかなぁ……あ、噂をすれば」


美津菜があたしの肩をたたいて、窓際の一番端の席を指差す。

そこには五十嵐と鳴海が向かい合って座っていた。
二人の隣の席は丁度空席だった。


「あそこ行こうよ!」


「え?なんで?」


「なんでって……他に空いてる席ないし、それにあたし、鳴海と話してみたかったんだよね」


確かに鳴海は、美津菜の好きそうなタイプだ。
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