《完》オフィスでとびきりの夜を
「あらら、汚れちゃったわね。

はい」



そう言ってハンカチを
差し出してくれた人物に、
あたしは思わず目を見開いた。



「……課長……!」



(――て、なんでよりにも
よって課長がここに……)



今イチバン会いたくない
その笑顔に、つい表情が
強張ってしまう。



「ん? どうしたの?

気分でも悪い?」



「あ、いえ――…」



小さな声で言ってあたしは
ぎこちなくハンカチを
受け取った。



すぐに立ち去ろうかと
思ったけど、課長は
鏡越しにあたしを見て
なおも話しかけてくる。



「そう?

何だか最近元気もない
みたいに見えるけど。

ひょっとして疲れでも
たまってる?」
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