《完》オフィスでとびきりの夜を
(瑞樹………)



駅を出て会社に戻る道を
歩きながら、祈るような
思いで瑞樹を見つめてたら。



偶然か、あたしの視線に
気づいたのか――少し前を
歩く瑞樹がふいにあたしを
見て、しっかりと目が合った。



「あ…………」



瑞樹があたしを見てる。


今のうちに、何か言わなきゃ。



とっさにそう思って口を
開くけど――でも、思いを
伝えるスムーズな言葉が
出てこない。



(早く……早く、
言わなきゃ……!)



「あ、あのっ。

――け、圭輔のことは――…!」



やっとの思いで出した声。



そして数週間ぶりに、仕事
仲間としてじゃなくただの
あたしとして瑞樹に向けた声。
< 155 / 276 >

この作品をシェア

pagetop