《完》オフィスでとびきりの夜を
いつの間にかそんなに
時間も経っちゃってたんだ。



あたしはしどろもどろに
謝ってガタガタ椅子を
鳴らしながら席を離れた。



と、距離の近くなった
瑞樹がさりげなく背中を
かがめて顔を寄せ、周り
には聞こえない小声で
囁きかける。



「マジでどうしたの?

“瑞樹”とか呼んじゃって」



「…………!」



いけない、会社じゃクン
付けで呼ばないとダメ
なのに……それすらも忘れてた。



「ホ、ホントに何でもないの!

ゴメンね、心配かけて」



あたしは何とかムリヤリ
笑顔を作って笑うと
さっさと出口に向かって
歩き出した。


これ以上何か突っ込まれて
ごまかし切れなくなる前に
逃げてしまおうって
思ったんだけど……。
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