天空のエトランゼ〜蜃気楼の彼氏〜
「なのに!」

僕は、ビルまで伸びた一本道を走りながら、周囲を見回した。

魔物に襲撃された痕はないのに…人の気配がない。

「避難したのか?」

ビルのそばに来ても、人の気配はない。

町のモニュメントのようなビルは、玄関の扉が開いていた。

だけど、僕は中に入らずに、ビルを迂回して、反対側の地区を捜索しょうとした。

「うん?」

玄関先を、右に曲がった瞬間、僕の目線の端に、妙なものが飛び込んできた。

それは、鮮やかな色彩だった。

「な!」

慌てて、ビルの側面を見た僕は、絶句した。

そこだけが、真っ赤だったのだ。

30階を越すビルの側面が、真っ赤に塗られていたのだ。

そして、鼻をつく臭いに、僕は見上げながら、目を見開いた。

「血か?」

信じれないことに、ビルの側面を血で真っ赤に、塗りつぶしてあったのだ。

「誰が…こんな」

人間ができるはすがなかった。

「魔物…いや、魔神。それとも…」

僕は、周囲を見回した。

「女神!」

その時、頭上から誰が飛び降りてきた。

「な!」

反射的に、後ろに飛んだ僕の目の前に、3人の男女が降り立った。

「お客様か?」

前歯がまったくなく、ギョロ目の男は、僕を見た。

「それとも…」

一瞬、女に見間違う程の美形の男は、切れ長の目を向けた。

「単なる絵の具かしら?」

そして、150センチくらいしかない女が、首を傾げた。

(こ、こいつら!)

ビルの屋上から飛び降りても、まったく痛めていない足を見て、僕は悟った。

(眷族か!)

「まあ〜いいわ」

小柄な女はにやりと笑うと、どこからか巨大な鎌を取り出した。

「新鮮そうだから!絵の具にするんじゃなくて、血を頂いちゃおうかしらん!」

「そうだな」

美形の男はフッと笑うと、髪をかきあげ、僕を見つめた。

「我が女神の為に!」

「そうだ!貢ぎ物だあ!」

ギョロ目の男は、天を仰いだ。

そして、3人の次の言葉に、僕は言葉を失うことになる。

「我らが女神!アルテミア様の為に!」
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