俺はお前だけの王子さま
渡瀬は俺に腕を捕まれたまま
なぜか泣きそうな顔をした。


「…なんで泣きそうなんだよ」


俺、そんなに冷たかったか?


俺は渡瀬の腕を捕まえている手の力を少し緩めた。


渡瀬は膝立ちのままプルプルと首をふった。


「ごめん、嬉し過ぎて…」


「………」


「私も…王子くん大好き」


渡瀬は髪で顔を隠すように下を見ながら、照れた顔でふにゃりと笑った。


「…………」


俺は渡瀬の腕を引寄せる。


座った俺の腕の中にすっぽり入る渡瀬のノースリーブの小さな肩を抱きしめた。


なんか…離したくない


「王子くん…」


渡瀬も俺の背中に腕を回して、俺の胸に顔を埋めた。


きゅ…とつかまれた背中


ふわりと渡瀬の髪から良いにおいがする。


夏の暑さの中で
頭の芯がクラクラしていく。


「渡瀬…」


俺は渡瀬を求めるように渡瀬の首筋に顔を埋めた。


「王子くん…私こんなだけど…がんばるから、ずっと一緒にいてね」


俺の肩に顔を寄せ渡瀬は言った。


「王子くん…好き」


俺の背中をつかむ渡瀬の手が
きゅっとなる。



俺は…


そんな渡瀬を抱きしめながら
今朝の親父の言葉を思い出していた。

< 339 / 558 >

この作品をシェア

pagetop