俺はお前だけの王子さま
「あのっ…いきなりこんな時間に申し訳ありません」


渡瀬はまたもや深々と頭を下げた。


「いやいや、構わないよ。むしろ大歓迎だよ」


頭を下げる渡瀬の肩をぽんとした親父。


「顔をあげなさい。渡瀬さんといったかな?」


「はい、渡瀬愛子と申します…」


渡瀬はゆっくり顔をあげると
親父を緊張ぎみに見上げた。


そんな渡瀬に親父はにっこり笑う。


「うん。渡瀬さんね。とりあえず今は無礼講で構わないから。堅苦しいのは社交の場だけで結構」


「…はい」


親父は渡瀬から俺に視線を移す。


「春馬も疲れたろう?二人とも座りなさい」












それから俺たちは色々な話しをした。


親父の気さくさに触れ、渡瀬もだいぶ落ち着きを取り戻した。


時折笑みをこぼす渡瀬。


偉大な親父だけど、場の空気を創ることにかけては、ことさら天才だと思う。



親父は飴色のブランデーを片手に俺に聞いた。


「それでアメリカはどうだった?」


「ん…まぁ疲れた」


気だるく答える俺に親父は笑った。


「はははそうか。だけど俺は
今回の春馬の渡米は嬉しかったよ」


「…?」


俺が首を傾げると親父はしみじみと言った。


「正直、春馬から自主的に視察に行くなんて思わなかったからな」


「………」


「息子の成長に純粋に親として感動したよ」


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