俺はお前だけの王子さま
俺が…

何のためにくそ暑い中、わざわざ渡米したのか。


何のためにクソ面倒な視察をしたのか。


わかんねぇかな?


渡瀬の為じゃなきゃ…
俺はそんな面倒なことは絶対にしねぇ


俺は涙で濡れた渡瀬の紅色の頬を優しく撫でる。


「あんたの為なら…俺はなんだってやってやるよ」



今まで…

こんなに何かを欲しいと思ったことはなかった。


必要な物はいつでも周りに溢れていたし


親にさえ傍にいて欲しいなんて感じた事がなかった。


感じてはいけないと思っていた。


だけどアメリカ行きの話が出た時


淋しい…

離れたくない

離したくない



ようやくそんな風に思えたんだ


渡瀬を手放さない為なら俺は
どんな事だってやってやる



「…っ…ぅ…」


渡瀬の瞳からは次から次へと涙が溢れた。


俺は渡瀬の涙をもう一度タオルで拭いてやった。


「泣きすぎだろ…頭痛くなんぞ」


「だって…だって不安だったんだもん」


ぐしゃぐしゃの渡瀬の顔。


「…口下手で悪かったな」


何かを大切にしたり
欲しがるのには慣れてねぇ


そんな自分にも慣れてないし

どうしたら良いかわかんねぇんだよ


少し困って頭をかく俺をみて
渡瀬はようやく笑顔をみせた。
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