俺はお前だけの王子さま
校庭の大きな銀杏の木を横目に校門を抜けると


続くゆるやかな長い坂道。


登校時にはいつもうざいと思っていた。


いつもと変わらない帰り道。


いつもと変わらない渡瀬。


いつもと同じ、無愛想な俺の隣でニコニコ笑う渡瀬の横顔を眺めて。


全部が当たり前だと思っていたのに

今さら全てがこんなにも大切で特別だったと気付く。


失う時になって、今ある景色が輝きを増して見えるなんて。




最近はもう泣かなくなった渡瀬


意地っ張りでがんこな渡瀬


気丈に振る舞う渡瀬を見て、
俺もギリギリの自分を保っていた。


俺と渡瀬をつなぐ、張りつめた細い糸。



きゅ…


ふいに渡瀬が俺の手に指を絡めてきた。


普段は手をつながない渡瀬が


俺は少し驚いたように渡瀬を見た。


「今日はずっと一緒にいれるね」


そう言うとにこっと笑って、
だけど一瞬だけ泣きそうな顔をした渡瀬。


涙をこらえる渡瀬に


張りつめた気持ちが崩れそうになった。




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