とまった夏の日(仮)
プロローグ
 また今年もここへ来てしまった。
いつもは何気なくとおりすぎるだけの公園だけれど、この日だけは、毎年自然と足が向いてしまう。

“足が”ではなく、“心が”と言ったほうが正しいのかも知れない。
今は上京しているのだけれど、帰省して毎年ここを訪れるのが私の毎年の恒例となっていた。

わざわざ東京から約150キロ離れた田舎に帰省までして来るということは、もちろん特別な日だからだ。

今日は23回目の私の誕生日。
誰にしてみても自分の生まれた日は特別なんだろうけど、私にとっての誕生日は特別の中の特別な日だった。

やっぱり寒いな……。

公園の入口にこうしてたたずんでいると、まだ六月といえど肌寒い。
風が走り抜けていっては、私の体を小さく震わす。

肩にかけたストールを羽織り直すと、一歩一歩ゆっくりと歩き始めた。

公園の入口であるグランド。
梅雨空のこの時期は誰も使っていないグランドは、暑い夏が来ると野球少年が汗まみれで小さなボールを一生懸命追いかけている。

そこにはひとつだけ野球ベンチが置いてあった。
野球は2チームで試合をするのに、なぜかここにはひとつしかなかった。
いや、私が小さい頃は二つあったんだ。駐車場にする為にひとつだけ残されたんだ。

父とふたご座流星群を見に来たとき、今はなくなってしまった野球ベンチの上に立って流れ星を数え記憶がある。
まだ物心がつくかつかないかくらいの年齢だったけれど、ちょうどその頃、私の名前が変な名前だって馬鹿にされた時期でもあった。
泣きじゃくる私を父はここに連れてきて、満天の星空を見せてくれたっけ。

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