とまった夏の日(仮)
「どうして私の名前は“すみれ”なの?」

「スミレの花言葉はね、“誠実”とか“小さな幸せ”っていう意味があるんだよ。
それにね、スミレの花はコンクリートのように硬い道路にも力強く咲く花なんだ」

「ふーん」

「だからお父さんは、スミレの花のように強くて誠実で、小さな幸せでもいいから幸せになってほしいって願いを込めてつけたんだ」

そう言って、父は私の頭を撫でた。
あの時はまだ幼すぎて、父の言ってる意味さえもよく分からなかったが、その言葉の中にあった“小さな幸せ”は強烈に焼きついていた。
でも、そんな父の思いも私は裏切ってしまっている。

何も気づかずに通り過ぎていた公園は少しずつ形を変えているように、私の心も大人になるにつれて変わっているのだ。

 そしてこの場所で、私は初めての恋を覚えた。
私が15歳のときだ。

昼下がりの空を仰ぐと、私はふっと思い出し笑いをした。
一瞬で連れ戻されるこの公園は、まるでタイムマシーンのようだ。

「俺と付き合ってください」

そういう恭司(キョウジ)の突然の告白に、ものすごく驚いたっけ。
心臓が止まりそうになって、危うく腰を抜かすかと思った。
あの時の私の顔ったら。目を大きく見開いて、口はあんぐり開いてたんだろうな。
きっとまぬけだったに違いない。

あれは桜もつぼみの頃で、私も恭司も高校の入学式を前日に控えた日だった。
今でもあのときのことは鮮明に思い出せる。

けれど、私も恭司は告白の背景には隠された事実があったのも知らずに付き合い始めたのだった。
誰も予想だにしていなかった衝撃の事実が、私たちの人生いたずらに変えていった。
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