あの子のために雪は降る
愕然とした顔で病室を出た時、右から来た看護師に呼び止められた。


「あなたは誰!?そこには誰も居ませんよ?」


その声に反応して振り向くと、すずめを運び込んだ時に会話した看護師だった。

俺は付けヒゲをむしり取って顔をさらすと、看護師に掴みかかるようにしてすずめの居場所を聞いた。


「看護師さん!俺だよ!すずめは…すずめはどこにいる!?無事なのか!?」


「あ!!あなただったの!?すずめちゃんは集中治療室に居るわ。…容態は…。」


看護師はそこまで言って首を横に数回振った。
俺は必死に肩を揺さぶりながら連れて行ってくれと頼み込んだ。

集中治療室って場所は面会謝絶ってのをテレビで見た事がある。
そんな事は分かった上での頼みだった。


「…分かったわ、連れて行ってあげる。
…実はね、すずめちゃん一回だけ意識を取り戻したのよ。
その時しきりに「お兄ちゃん」って言ってたの。
あの子には兄弟は居ない。あなたを見た瞬間、私はきっとこの人を呼んだんだって感じたわ。…こっちよ。」


看護師は真剣な眼差しでそう言うと、すずめの居る場所へと案内してくれた。


(アイツが…俺の事を…?)


俺は看護師の言葉に嬉しいのか悲しいのかも分からないまま、自分の胸元をギュッと握りしめた。

今まで冷め切っていたハートが暖かくなったような気がした。
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