過去の秘箱


父親の右手はどんどんエスカレートしていく…五本の指がパジャマの中に進み、直に肌をもてあそぶ。


次の過程は、下半身へとコースをたどる。


バジャマから下着の中へと……父親の手が侵入して行く。


その間、父親の左手はずっと止まる事なく、自身への慰めが続く。


どれだけ時間が経過したのだろう。


  「のりこ~」


父親のかすれた小さな声が……酒に侵されたその臭い口から母の名が零れる、これが終了のサイン。


自分のパジャマを汚した父親は、そっとベッドから抜け出て行った。


襖が閉められた。


それは、上段にいる詩織の知らない世界。


長い狸寝入りの時間が終わり、沙織はパチッと大きな瞳を見せた。


   終わった…。


嫌な時間が去った沙織は、やっと安心して眠りにつく事が出来た。



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