過去の秘箱
沙織は、戻りたくない部屋に、もう沈んで跡形も無くなった城に戻る事にした。
「何だ?帰って来たのか?」
「お父さん、お願いよ、中谷君の学校に電話なんかしないでよ。
ただの友達なんだし、そんな事したら、凄く迷惑かかるよ……お父さん、お願い……」
正男の目が……黄色く澱んだ瞳が一瞬光った……と……あの妖しい空気が二人を包む。
正しい男と書いて正男。
己れの欲望に正しい男……それが正男。
沙織は…まな板の上の鯉。
どんなに逃げても逃げても、また連れ戻される、まな板の上に……。
や、や、やめてほしかったけど、逆らえば、マー君の身が……。
大人しくじっと堪えた。
時間が過ぎれば離れる体……始まりには終わりもある。
この時間さえ我慢すれば、マー君に迷惑かかる事はない、また今まで通りに会えるから。