過去の秘箱

その人は……私に苦しみを与え続けた、その人は……タイヤのついたイスに座っていた。


その人は……私を見て、細い目を見開き驚いた。


「沙織………来てくれたのか……」


「お父さん……久しぶり………」


「あぁ………」



瞳に涙浮かべた板前は……私から視線を外した。


詩織がわざとおどけながら、この空気を穏やかにしようとする。


「お父さん、何も泣く事ないじゃん?」


板前の目から涙が零れる。


ポロポロ、ポロポロと……その動かなくなった太ももに涙の雫が落ちる。


涙の成分って何から出来ているのだろう?


この人の涙も、私の涙も、詩織の涙も、同じ成分ですか?


ねぇ板前さん……私は、あなたの知らないとこで、どれだけ涙流してきたか知っていますか?



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