過去の秘箱


泣く父親を詩織がなだめる。


「お父さん…お姉ちゃんせっかく来てくれたのに、そんな涙見せたら駄目じゃない、ねっ」


この二人は本当の親子。


義理父は、止めどなく流れる涙を……過去に私を弄んだ手で拭う。


「沙織……沙織……ごめんな………俺はお前に悪い事をした……馬鹿な男だ……許してくれ……」


何を、何に対して謝っているのか、懺悔しているのか……詩織は知らない。


それは……板前と鯉しか知らない世界。



車イスの上で……板前時代を悔いるこの人が哀れに見えた。



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