過去の秘箱


昨日の悪夢がまるで嘘だったかのように、沙織はいつも通りスーパーに入って行く。


右にスクールバッグ、左にスーパーの袋を持ち家路を歩く。


13歳、中学1年……まだまだ社会では働けない、一人では暮らせない。


あの家に帰らなくては生きてはいけない。


正男が実の父ではない事……沙織は知っていた。


記憶はおぼろ気で頼りないものだったが、3、4歳の頃の事……。


正男に内緒で、典子は沙織を連れて前の夫、沙織の実父と会っていた。


新しいお父さんには絶対秘密だからね、言っちゃダメよ……この母のセリフは今でも耳に残っている。


それが、妹の詩織が生まれてから、もう会う事はなくなった。


生きているのか、死んでいるのかさえもわからない。




< 30 / 221 >

この作品をシェア

pagetop