過去の秘箱


正男は寝ている沙織を後ろから抱き締め、両手で胸を掴んだ。


「お父さん!」


沙織はびっくりして、正男から逃げようとした瞬間、椅子から引きずりおろされてしまった。


この板前さんの仕事は本当に荒々しい……力任せに料理していきます。


「お父さん!何で?何でなの?」


正男は二度三度、沙織を叩いた後、言葉を吐いた。


「典子が悪いんだ!典子だ!典子を恨め~」


恐かった……その思いだけが強い理由で…鯉はまたもや観念してしまった。


何で…何で…何で、お父さん……。


 涙の池で泳ぐ哀しき

     錦鯉

   それは沙織~



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