過去の秘箱
10 初恋
物語は、沙織が中学校に入学した春に戻る。
その頃、母はまだいた……下田家は普通の一般家庭。
桜舞う季節……美術の時間で、教室外に出ての写生の授業があった。
石段に美雪と並んで、私はキャンバスに向かっていた。
2時間かけてやっと出来上がった。
その時、向こうからふざけながら歩いて来た男子生徒が3人。
筆洗いのバケツ振り回しながらやって来た…そのバケツの水が!
私のスケッチにこぼれてしまった。
絵が…私の絵が薄れた、ぼやけた、もう駄目、これじゃ台無しだ。
「ごめん………」
これが、クラスの違う中谷雅之との出会いだった。