過去の秘箱


彼が最高の笑顔をくれる。


「頑張れよ、下田!電話よこせよ。元気でな」


「うん、ありがと、中谷君もね…サッカー頑張ってずっと続けてね」


「おっ!んじゃ行くよ」


と自転車に股がった。


ペダルに足をかけ漕ぎ出そうとした。


早く言わなきゃ、何ぐずぐずしてんの、沙織!


「ねぇ!中谷君!」


彼が振り返る。


「……ありがとう、今まで優しくしてくれて……」


次に言葉が続かなかった。


ニコッと笑みを残し、彼はペダルを漕ぐ。


だんだん小さくなって行く、その姿。


言えなかった、言えなかったよ、たった2文字の……すき……。


駅のトイレ内……中から鍵閉めて…うずくまり泣いた。


たった一つの発電所とお別れ……もう毎日顔が見れなくなってしまうのね…この現実はあまりにも辛いよ。


一回の哀しみに溢れる涙……最大量は決まっていないみたい、いくらでもいくらでも流れ出てくる魂の泉から………。


今から、私の帰る場所は涙池……いくら泣いても、またすぐに涙の補充は出来る。


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