ね、先生。
「・・・いや、あの、、そのっ、、、」

上手い断り方が出てこない私に、沢田くんが続けた。


「中学の時のさ、学区対抗の競技大会で絆創膏くれたの覚えてる?」

「・・・え?」

「オレ、走り高跳びの競技出てて、桜井さんは記録の担当だったかな?
 飛ぶのに失敗したオレに、手を差し伸べてくれて、擦り剥いた腕に気付いてくれて、ポケットから絆創膏くれたの。」


沢田くんの話に、少し記憶が蘇える―。

中学の時、
二学期になると体育祭とは別に、市内にある中学が集まって、競技大会が行われてた。
私は三年の時、走り高跳びの記録係だった―。 ・・・だけど、


「・・・記録係だったけど、、、。
 ゴメン。沢田くんの事は・・・。」


正直、覚えてない。


「ううん。いいんだ・・・。だと思ってたから、昨日の様子から。」



  ミーン、ミンミンミン・・・


一匹の、セミの鳴き声が聞えた。




「付き合ってって、覚えてないヤツに言われても困るよね、、。」

「・・いや、あのっ、、、」

「付き合うのは無理でも、友達として、友達になって欲しい。 オレと。」

「・・・うん。友達としてなら・・」

「ホントッ?!」

「う、うん。」

「オレ、沢田剛。 よろしくッ!!」


沢田くんの右手が頭から離れ、すっと私の目の前へと差し出された。



「・・よろ・・しく・・・」


沢田くんは眩しいほどの笑顔を溢し、


「ごめん! これから部活だよね? オレの為に、ありがとう!!」


そう言ってくれた。
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