ただ風のように
「包帯も巻いたことだし行こうニャ」
「先輩今、ニャって……」
「あぁ、今のはロクだよ」
海頼先輩はそう言って部屋の角を指差した。そこには真っ黒の猫がいた。
「か、可愛い……」
「ロク、おいで」
海頼先輩が呼ぶと飛ぶように走ってきて、先輩の腕の中に飛び込んだ。
「ロクはトラと違って人なつっこいんだ。渚兄ぃに似ててね。はい」
先輩は私にロクちゃんを向けた。私は恐る恐る、ロクちゃんを受け取り抱いた。
「ロクちゃん」
「ニャー」
私が抱きあげて名前を呼ぶと返事をするようにロクちゃんは泣いた。
「可愛い」