ただ風のように
「ここも中学のとき来た場所。バイクで派手に転んでさ、ガードレールにぶつかって倒れたバイクを起こしたときに偶然、下を見たんだ」
ガードレールから下を見下ろすと岩が複雑に立っていて海水がその間を縫うように動いていた。引いては満ちてを繰り返し見ていて私はようやく気付いた。
「先輩、この岩……」
「やっと気付いた。『風』なんだよね。ここから見ると逆だから分かりにくいけど自然の力ってすごいよね」
複雑に立っているように見えた岩は大きく『風』という漢字を作っていた。
「本当にすごいです」
「まぁ、この場所はこれしかないけど俺は結構、気に入ってる。次に行こう」
先輩は笑ってそう言った。さっき見た哀しそうな目はすっかりなくなっていた。