ただ風のように
先輩の知り合いの家は本当にすぐそこだった。海の近くに建つ大きなコテージのような一軒家。ログハウスというものを私ははじめて見た。
玄関の横には月見里と書かれた表札があった。
「先輩これ何て読むんですか?」
「何て読むと思う?」
「……つき、みさと?」
「俺も、最初はそう読んだ。これはね『やまなし』って読むんだ。月がよく見えるのは山の無い里って意味なんだって」
先輩は笑いながら答えてくれた。
「面白い由来があるんですね。はじめてこんな名字、見ました」
「全国にも全然いないらしいよ。じゃあ、入ろうか」
先輩はノックをすることもなくドアを開けた。