ただ風のように
「そろそろ帰ろうか」
私が落ち着くまで先輩は黙って見守っていてくれた。
「はい」
私は返事をして先輩の後ろに座った。帰りたくなかった。このまま家に帰らずにいたかった。
「ちゃんと掴まっててね」
先輩はそう言うとエンジンをかけてバイクを走らせた。
私は先輩には掴まらずシートの両側を握っていた。なんとなく掴まったらいけない気がした。
バイクはスピードを上げて、朝に通った道を戻っていた。どんどん現実に戻っていく感覚がした。
先輩がバイクを停めたのは昨日、私が先輩に電話をかけた公園だった。
「着いたよ」