ただ風のように
「あ、はい」
私がソファーに座ると先輩もとなりに腰をおろした。
「それじゃあ、何があったか聞かせてくれる?」
「えっと、何があったとかじゃなくて……何て言うのか、何にもありませんでした」
私は戸惑いながらそう言った。
「どういうこと?」
「あの日、帰ってから兄達は前以上に優しくしてくれるようになりました。そして母は前以上に私に興味を持たなくなりました」
私は先輩の顔を見ずに淡々と話していた。先輩の顔を見たら泣いてしまいそうだったから。先輩は黙っていたからそのまま話を続けた。
「声をかけても返事はないですし、母の視界に……私は入っていないみたいです」
そう言った私の目からは涙がこぼれ落ちていた。