ただ風のように
日曜日、俺は午後4時にはコートに入ってボールの感触とコートの固さを確かめていた。
「お、海頼。はえーな」
雅サンがプレイヤー専用の出入口から出てきて声をかけてきた。
「雅サンも早いっすね」
「あぁ、ちょっとな。それより今日の調子は?」
「良い感じです。これなら余裕で勝てますよ」
俺はボールを手で扱いながら笑顔で言った。
「そうか。じゃあ、やり易いな。龍蛇までは出ろよ。じゃあ、あとで」
俺がそう言うと雅サンはさっきと同じ出入口に消えていった。
龍蛇というのは龍と蛇の間の時間、つまり5時30分ということだ。