狂信者の谷
 それがなぜ、引いたのか。

 すでに聖地は目の前である。

 嫌な予感がする。

 これはなにか仕掛けてくるはずだ。

 恐らく、夜中の襲撃はこちらの実力を調べるためのものなのだろう。

 この探索行の目的地も近い。

 聖地にある黒鳳天草花《ソーン》の群生地がそれだ。

 陽の落ちる前に着けるであろう。

 女主人が依頼してきたのが、この黒鳳天草花の種の入手だった。

 黒鳳谷のその群生地にしか咲かない黒鳳天草花の種は、最高級の香辛料として、またそれ以上に、強力な精力剤としてその名が知られている。

 ただし、黒鳳天草花の種は薬法師ギルドが禁薬に指定していた。

 その精力剤としての効果は、絶大で、使用者の全生命力を僅かな時間に凝縮するので、使用者は間違いなく生命力が涸渇し、急激に老化、老衰に至る。

 ポクン・ポーラーの女主人は、薬物交易の裏にも通ずる女性で、そこからどうしても黒鳳天草花の種が欲しいという要望があり、それで紅に採って来てくれるよう依頼してきたのだった。
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