狂信者の谷
「実は、黒鳳天草花の人工栽培に成功した奴がいてね。

実用化にはまだ時間が掛かるけど、生産が始まれば、価格が落ちて安定する。

そこで、邪魔になるのが、天然物の流通を取り仕切っているジパドってわけ、あそこは攻撃的で必ず人工栽培物の流通に対して障害になる。

ここまで言えばあんたにはもう判っただろう」

「はい。じゃあ、始めからジパドを潰すために、師匠一人で行かせたわけですか」

「そう、正確にいうとジパドの弱体化を狙ってね。

ついでに群生地が潰れてくれれば完全に流通を独占できるでしょ。

それに、この事はハダ密との話しもついていてね。

最近影響力の出てきたジパドを快く思っていなくてね。

禁薬の密輸にも手を出しているし、ジパドの中枢に打撃を与えられるならって協力してくれたのさ。

でなきゃ、仮にもハダ密の聖地の一つを壊しかねない奴を近付けるわけがないだろ」

「ははぁ、そう言う事だったんですか。なら、きっと大丈夫ですよ。

最近欲求不満でイライラしてましたから、抑え役の僕がいない分、師匠、好き放題にやってますよ」

「まあ、そうだろうね。ジパド壊滅が十万平均通貨《ジード》で出来るんだから、安いものさね」

「そうですね。僕はお金さえ入れば文句ないですから。それじゃあ、師匠の暴走を願って乾杯」

「乾杯」

 二人が合わせた湯飲みは澄んだいい音がした。
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