狂信者の谷
 男の背後にいた二人も同様だ。

 口をあんぐりと開けて惚けている。

「わたしの言うことが判るかい?判ったらうなずきな」

 紅が男の耳元で囁くと彼はゆっくりとうなずいた。

「よし、いい子だよ。それじゃその刀で後ろの二人を斬りな」

 その一言で、男は振り返り、惚けている二人の首を撥ねた。

 鮮血を吹き出しながら二体の死体はその場に倒れ、その血をタモに吸わせた。

 それを見届けてから紅は次の命令を下した。

「さあ、次はその刀で切腹してみせなさいな」

 男はゆっくりとした動作でその場で正座し、刀の刃先を自分の腹に当てた。

 そのまま腹に潜り込ませ右から左へ自分の腹をかっさばいた。

 辺りに血と臓物の匂いが立ち込める。

 その匂いに眉一つ動かさず、紅は、血の海に沈んだ三つの死体とザハの死体を踏み越えて、タモの結界の外へ出た。
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