狂信者の谷
「いい加減にしろっ!わたしは薬法師だ。医者や薬師《くすし》じゃない。薬法師の仕事を持ってこいっ!」

 余りの依頼の低俗さに切れた紅は、そう一喝し、庵に集まって来ていた依頼者たちに、岩塩を投げ付けた。

 投げ付ける際に紅の囁いた呪によって、岩塩は本来の力を思い出し、それを行使した。

 つまり、その場にいる者の欲求を吸い取り、清めたのだった。

「ふん、これで嫌なことは忘れただろ。さっさとお帰り」

 岩塩の効果で惚けていた者たちは、なぜ自分たちがここにいるのか不思議がりながら、庵から去っていった。

「ふうっ、やっと消えたか。さて、お茶にしようかしら」

 そう呟いて、紅が庵の中に戻ると、弟子のカムランが腰に両手を当てて彼女を睨んでいた。

「師匠、またやりましたね。何度言ったら判るんですか、大切なお客さんをおっぱらっちゃって。いいですか?師匠が元老院への推薦蹴っちゃったからギルドからの元老院支給もなくて、うちの財政は悪化の一途を辿っているんですよ。今日の夕食を食べるためにも大事なお客さんの仕事をこなさなくちゃいけないんです。だいたい師匠は、弟子の僕と言うものがありながら一人でなんでもかんでも決めちゃって、それでいつでも貧乏くじ引いてくるんですからね。必死でやりくりしている僕の身にもなってください」

 カムランは一気に捲し立てた。
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