ちいさなたからもの
そうして、春休みを迎えた。



ある朝の朝食の場で、父さんが言った。



「浩平の受験も終わったわけだし、久々に家族旅行にでも行くか」



今では朝食だけが、唯一俺と桜と父さんが顔を合わせる時間だった。



この時間は、俺にはいちばんの苦痛だった。



「家族旅行?」



「春休みだろ?・・・嫌か?」



「別に嫌ってわけではないけど」



ただ、家族旅行と言う響きが、嫌だった。



もう、母さんはいないのに・・・



それでも、家族旅行と言えるのだろうか。



俺には、分からなかった。


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