ちいさなたからもの
・・・桜が。



不安げな表情で、こちらを見ていた。



その後ろには、父さんが立っていた。



叔父さんが父さんに会釈をする。



桜が、とてとてとこちらに走ってくる。



危なっかしい足取りで。



案の定、どてっ、と転んだ。



「桜っ・・・!」



俺は迷うことなく、駆け出した。



もう、迷うものか。



桜のあんな、不安そうな表情を見るほうが、もっと辛い。



桜の前にかがんで、手を差し伸ばす。



「大丈夫か?」



「・・・うん」



幸い怪我はないようだ。



「立てるか?」



「・・・うん」



俺の手を掴んで、立ち上がる。



「おにいちゃん、あのね・・・」



ひさしぶりに兄、と呼ばれた。



それが、嬉しかった。



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