Fahrenheit -華氏-
「き、君!!目上の者に対して何たる口の利き方!」
村木はもう怒りを抑えることもせずに、顔を真っ赤にして怒鳴った。
他のブースから何事か、社員たちが顔を覗かせる。
「わーーー!柏木さんっ!そこまでに…」
俺は柏木さんの両肩に手を置いて、必死に宥めようと思った。
すぐ傍で佐々木がどうすればいいのか、はらはらしたように、慌てふためいている。
けど、柏木さんの勢いは止まらず俺を押しのけると、
「目上、目下とか関係あります?今あなたは女という生き物を馬鹿にしたんですよ。あなたの方こそ口の利き方に気をつけるべきだわ」
「煩い!!女なんて仕事の邪魔だ!女は大人しく男の後をついてこればいいんだよ!!」
村木が怒鳴り返す。
言ってることが滅茶苦茶だぜ、村木。
これじゃ柏木さんを余計怒らすことになる…
と俺は苦い顔をしていると、案の定柏木さんは口を開いた。
「黙って男の後をついてこればいい?それって自信がないからじゃないですか?自分の能力に自信がないから、女という名の下の生き物を造りたいだけだわ。
女はね、男より偉大なのよ。男よりずっと強いのよ。あなただってその女から産まれてきたわけでしょう!?」
た、確かに……
俺たち男はみんな女という母体を通して生まれ落ちるわけであり、新しい命を産み落とすのもまた女にしかできないことだ。
説得力ある…と言うか目からうろこ?
そんなこと考えたこともなかった。
「何を!!」
村木は柏木さんに掴みかかりそうな勢いで、身を乗り出した。
咄嗟のことに、俺は柏木さんを後ろに庇うように隠すと、
「はい。そこまで。お互い今は頭に血が昇ってるようですし、一旦頭を冷やしましょう」
と村木を見据えた。