Fahrenheit -華氏-
「部長、前から思っていたんですが、その女性に迫って喋る癖直した方がいいと思いますよ」
「へ?」
部長はぽかんと口を開いた。
「勘違いしてしまう女性もいると思いますから」
ああ、ごめん。
そう言うと思ってた。いつもどおり。
ちょっと困ったように眉を寄せて。
でも……
「柏木さんなら勘違いされてもいいんだけど」
部長はたまに見せる真面目な表情で、真剣にあたしを見てきた。
オッドアイのきれいな瞳に、まっすぐ見つめられると……まるで吸い込まれそうだ。
あたしの気持ちをこの人は何一つ知らないのに、それでいて吸収しようとする。
抗えない、強い視線。
「……なんてね」
部長は軽く笑うと、もうパソコンに向かっている。
部長は……
良く分からない。