Fahrenheit -華氏-
「あら、お二人さん。お揃いで。珍しい組み合わせね」
会長室にデスクを構えている綾子は、俺たちを見るとちょっと驚いたように目を広げた。
「それぞれ別件で来たんだ。こないだ出したKDテクニカルの決済降りただろ?受け取りに来た」
あ~はいはい、と言って綾子は引き出しから書類を取り出し俺に手渡した。
「俺は綾子ちゃんに、結婚式の招待状を」
桐島は綾子のデスクに招待状をそっと置く。
俺は見逃さなかった。
綾子がその招待状を見て、目を広げたのち、一瞬だけ苦い表情を作ったのを。
綾子……?
「あ、あぁわざわざありがと。でも同期なんだしもちろん出席よ?」
あれ?いつもどおり……?
「そうだと思ってたけど、一応形でね」
「そういや俺も貰ってたっけね。まだ返事出してねぇや」
「啓人はもう出席に入ってるよ」
桐島はのんびり答えた。こっちも一応普段通りだ。
「ちゃっかりしてるな」
「だってスピーチお願いするんだもん」
「スピーチ……」
あれ、マジな話だったんだ。
ホントに普段通りちゃっかりしてやがる。